なんのためにもならない話

タイトル通りです。

初海外

私の初海外は大学1年生の終わり、冬休みのことでした。

宗門の大学に通い、その中でも宗門の僧侶の徒弟しかいない特殊な学生寮で1年間過ごしました。

修行道場の様に坐禅をし、読経をし、作務という掃除があり、親元を離れて暮らす大学生活でも、また違った厳しさのある1年間を過ごしました。

とは言え当時大学生ですから、仲良くなった寮の友人たちと長期休暇にはあんなところ行ってみたいという話で盛り上がり、フランス旅行を計画しました。

 

私にとってはこれが初めての海外旅行でした。

初海外なので、旅行代理店の用意したプランの中から、とは言え学生だった私たちが選んだのは一番安い終日フリーの宿も安価なプランでした。

 

これが良かったのだと思います。(もしかしたら悪かった?)

初めてのパリは、思っていたより街並みはずっと美しかった、けれど足下はゴミや犬の糞で汚れておりました。

通りにはサハラ以南から来た黒人やスカーフを被った女性が物乞いをしておりました。

泊まっていたのは安宿だったこともあり、パリの中心地から離れたところにありました。宿の目の前の通りはゴミだらけで、夜中も外から人が揉める声が聞こえ、救急車のサイレン音を一晩中聞いていた様な気がします。

地下鉄では子供たちが線路に靴を投げ捨て走り回り、セーヌ川を渡る区間には車両内でバイオリンを演奏するものがいて、街中には門番がいる高級ブランドショップがあるのです。色んな姿がある。これがパリなのかぁ。

日本しか知らなかった私には全てが新鮮で、それでいてテレビの中でしか知らなかったパリと比べ、思っていたよりも実際はつまらない街に感じておりました。

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エッフェル塔から眺めるモンマルトルの丘

 

勝手にパリにユートピアの様な幻想を抱いていた私は、頭の中が混乱し言葉にならない思いが交錯していました。

そんな中で訪れたのが、サクレ=クール寺院でした。映画アメリでも度々出てくる、モンマルトルの丘でも有名なこの寺院を訪れた時、そこではちょうどミサが執り行われておりました。観光客は脱帽、静寂を約束し参拝が認められていたのですが、その式中にお香の入った籠を聖職者達が左右に降る光景がありました。そして、跪き両手をクロスさせ祈る人たちの姿が目に写りました。

 

パリという街に幻想を抱いていた私ですが、その真実を目にした時に色んな葛藤が生じました。そしてそれは、きっとパリに暮らす人々にとっては当たり前で、そしてこの街にはもっと多くの葛藤があるのだと感じました。

どんな人たちが、どんな生活を送っているのか。そこに大きく宗教が関係しているからこそ、『宗教とはなんだろうか』と考える時に、宗教側からだけでは見えづらいものがあります。だからこそ、そこにある生活を見ることで宗教が見えてくるのだと感じます。きっとこの生活と宗教は切っても切り離せるものではなく、だからこそどちらか一方から見ることは出来ないのです。

日本で暮らしておりますと、"宗教"という語のイメージが一般的にあまり良いものではなく、それゆえに私は"無宗教"だ、という方も多くおられます。

信仰する宗教を持たないことは各個人の問題なので勝手ですが、"無宗教"という宗教の広まりを感じています。それはいわゆる伝統宗教が『存在』について語ってきた叡智を学ぼうとしないという姿勢でもあります。

(仏教の側から見ると、「生まれ、老い、病に伏し、死んでいく」という、生老病死の問題を明らかにしようとせずに苦しむ姿を見ると、無宗教という宗教は大変だなぁと思うわけですが。)

 

話を戻すと、先の語のイメージでわかりづらくなってしまった"宗教とはなんだろうか"という素朴な疑問を当時の私は抱いておりました。

宗教者として片足を突っ込んだ状態だった学生時代に、このまま『宗教とは』、とか、『お釈迦様がどんなことを語られて、それはなんで語られたのか』ということを、ただなんとなく、『このように辞書に載っているからこうだ』、ということだけを人には説くことはできないし、ましてや自分が一番納得いかないと思うようになりました。

簡単に言えば、自分が納得していない、自分に決着がついていないことを、人に良いと伝えることは詐欺だと感じたのでした。でも、学べば学ぶほどに感動すら覚えたのが私には仏教であったので、今僧侶として暮らしている訳であり、もしかしたらこうして文章として記しておくことで、同じように何か疑問に感じて生きている方のきっかけになったらと思います。

これがブログを始めたきっかけであり、初めての海外旅行にして感じ、今なお旅に出ている原動力となっています。

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サクレ=クール寺院内の様子